白内障手術のお話

白内障は、加齢や眼球打撲などの怪我、病気やステロイドなどの薬物が原因で目玉のレンズである水晶体が濁った状態です。

水晶体は、水晶体嚢(すいしょうたいのう)と呼ばれる薄いサランラップのような袋に入っていて、その袋がチン小帯と呼ばれる無数の細ーい糸によって目玉の壁からぶら下がっています。その袋の中身は、芯の部分に相当する核(かく)とその周りを包む寒天のような皮質(ひしつ)にわかれていて、核は年齢とともにより硬くなっていきます。

水晶体の濁り方には、中心部の核が主に濁る核白内障やその周りの皮質が主に濁る皮質白内障など、様々なパターンがあります。進行した白内障は、まるで牛乳寒天にくるまれたコーヒーキャンデーのような状態になります。皮質が牛乳寒天状態にまで濁ると肉眼で目を見ても黒目の真ん中が白いのが分かります。

水晶体の濁り方には様々なパターンがあるので、白内障の症状は光を異様に眩しく感じる場合もあれば、逆にお部屋全体が暗く感じてより強いライトがないと物が見えにくく感じる場合もあります。また、白黒で測る視力検査の結果では視力がでていても、色が薄いもの同士が見分けにくくなるような見えにくさを感じる場合もあれば、白黒がはっきりしたものでも見えにくくなる場合(視力が低下した状態)まであります。牛乳寒天に包れたコーヒーキャンデー状態の白内障では、物の形が全くわからず、光があるかないかしか分からない程に見え方は低下します。つまり白内障は手術をしない場合は、社会的失明に相当する見え方にまで低下するのです。

一度濁ってしまった水晶体は、現代の医学では西洋医学でも東洋医学(漢方や鍼灸治療)でも薬で透明に戻すことはできません。白内障の治療は、水晶体を取り除いて、代わりに透明な人工レンズを目玉の中に埋め込む白内障手術を受ける以外に方法はないのです。

白内障手術の流れ

水晶体を袋の中で細かく砕いて吸い出すため、核がコーヒーキャンデーのように硬くなった水晶体の白内障手術は、より強い超音波をより長時間かける必要がでてきて、手術で目玉にかかる負担が大きくなります。

水晶体の袋や糸が弱い目で核がコーヒーキャンデーになっていた場合、トランポリンで例えると、ぼろぼろのトランポリンでお相撲さんがジャンプするのと同じ状態になります。体重の軽い子供であれば多少布やロープが弱くてもトランポリンは壊れないかもしれませんが、そんな脆いトランポリンでお相撲さんが飛んだり跳ねたりしたら布が破れたり、ロープが切れてしまう可能性が高くなりますよね?それと同じで、袋や糸が弱い水晶体の白内障がコーヒーキャンデーになるまで待ってから手術をする場合は、もっと軽い段階で手術を受けるよりも、袋が残せない手術になる可能性が高くなります。

水晶体の袋や水晶体を吊っている糸がしっかりしているか弱いのかは、基本的には手術で目玉の中に器具を入れて直接水晶体を触ってみないとわかりません。術前に目玉の外から観察して糸が弱いとわかる場合は、糸の強度は相当弱いため、1回目の手術で眼内レンズが袋に入れられず、後日実施する人工レンズを目玉の壁に縫い付ける手術を終えるまでは見えるようにならない場合があります。

これらの網膜の合併症以外にも、角膜を透明に保つ細胞の数が減少して術直後の視力回復に時間がかかったり、もともと角膜の細胞が少ない人では白内障の手術後に角膜移植が必要になったりする場合や、術後に眼圧が高くなって一時的に眼圧を下げる点眼治療が必要になる場合があります。

特に問題のない白内障手術にかかる時間は10分程度ですが、白内障手術の時間が短いからと言って手術手技そのものが簡単なわけではないことを少しだけご理解いただければ幸いです。