緑内障のお話

緑内障ってどんな病気?

日本緑内障学会ガイドラインによる緑内障の教科書的な定義は「視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患である」とされています。

なんだか小難しくてすんなり頭に入ってこないと感じる方もおられるかもしれませんね。

緑内障を理解するために、まずは、目玉の構造をもう一度思い出してみましょう

光は目玉の正面玄関である透明な角膜(かくまく)を通って目の奥へと進み、最終的には目玉の奥のお部屋の壁紙に相当する網膜(もうまく)に当たります。目玉の中で光信号を理解できる細胞たちがいるのはこの網膜だけです。

光信号を受け取った網膜の細胞たちは、その光信号の情報を脳が理解できる電気信号へと変換して、様々な情報処理を行った後に、その電気信号を視神経に届けて、視神経はさらにその電気信号を脳へと運びます。

目玉が通訳してくれた光信号を受け取った脳は、その情報をもとに脳の中で映像を作り上げる作業に取り組むのです。つまり、目玉は脳が理解できない外界からの光信号を、脳が理解できる電気信号に翻訳する通訳係のようなものです。余談ですが、映像を作るのは脳なので、脳が病気になると幻覚というそのには無いものが本当にあるかのように見える症状がでるんですよね。

さて、緑内障はこの過程の中で目玉に託された情報を脳に届ける重要な役割を持つ視神経が傷む病気です。眼圧という、目玉の内圧が異常に高くなって視神経が傷むような緑内障もあれば、眼圧は正常なのになんだか知らないけど、やっぱり視神経が傷んでしまう正常眼圧緑内障といった種類の緑内障もあります。原因は何であれ、ある決まったパターンで視神経の傷みが進んでいくのが緑内障になってしまった目玉の特徴です。

視神経を電気コードの束だと想像してください。コードの中が少しずつ断線していくと、断線したコードが運んでいた情報はその先に届かなくなりますよね?緑内障の視神経もこのコードが断線していくように、部分的に少しずつ傷んでいきます。そしてその傷んだ視神経が担当していた範囲の情報は脳に届かなくなるため、脳が作り上げる映像に映像が抜けた(欠けた)部分ができてしまうのです。これが緑内障によって生じる視野欠損といって、見えている範囲の一部が欠けて見えなくなった状態です。傷んだ視神経の繊維の数が増えれば増えるほど、脳が作り上げる映像に何も映らない部分が増えていきます。

緑内障の治療はどうするの?

緑内障の原因は、残念ながらまだ完全には解明されていません。ただ、緑内障になってしまった視神経にとって眼圧が高い状態が負担であることは明らかで、緑内障の神経が耐えられる範囲に眼圧を抑えておいてあげないと、視神経の傷みがどんどん進行していくことがわかっています。このため、緑内障の治療は、その視神経が耐えられる範囲にその目玉の眼圧を抑えてあげることが重要となります。

さて、ここで何人かでハイキングに行く場面を想像してください。ハイキングのゴールは、ゆるい坂を上り切ったところにあるレストランになります。レストランに到着したら有名シェフの作る高級なごちそうが無料で食べられる代わりに、レストランのオーナーにレストランで使うお米を30kg運んできてほしいと頼まれているので、ハイキングルールとして、全員が必ず持てるだけのお米を運ぶことになっています。

ハイキングに参加している人は、筋肉ムキムキのお兄さん、結構元気だけどちょっと膝の悪いおばちゃん、足のケガをして治ったばかりのおじさん、足腰ともに弱ったおばあちゃまの4人です。この時にそれぞれが運ぶお米の量はどうやって決めるでしょうか?

マッチョなお兄さんは「20kgでも余裕!」と言っているので15kg運ぶことになりました。おばちゃんは「私は、膝が少しだけ悪いから8㎏くらいで勘弁してなー」と言っています。足を怪我して治ったばかりのおじさんは「ケガする前ならたくさん持てたけど、今はまだリハビリ中だから5kgぐらいで許してよ」と言っていて、おばあちゃまは、周りが2kgでいいよということになりました。

マッチョなお兄さんでももし100kgのお米を運べと言われたらさすがにレストランにたどり着くまでにつぶれてしまうし、ほかの皆さんもそれぞれの足腰の弱い原因はなんであれ、各々の足腰の強さに合わせたお米の量にしてあげないとゴールのレストランまで歩けなくなってしまいます。もし途中で誰かの足が痛くなってしまったら、ハイキングの途中でもお米の量を減らしてあげないと全員でゴールのレストランにたどり着けなくなることも考えられますよね?

緑内障の治療は、このハイキングと同じなのです。緑内障のゴールは、体の寿命がつきるまで視神経を使い続けることです。そして、ハイキングのお米に相当するのが眼圧です。健康な視神経でも、異様に高い眼圧にさらされ続けていればそのうち傷んでしまいます。すでに緑内障になって断線が始まった視神経は、視神経の弱り具合に合わせてその弱った視神経が耐えられる程度に眼圧を抑えてあげないともっと急速に視神経の断線が進んでしまうのです。

どのような理由で足腰が弱いかに関係なく、それぞれの弱さに合わせてお米の量を調整してゴールを目指したハイキングと同じように、原因が完全に解明されていない緑内障ですが、緑内障になってしまった目玉の視神経にとって負担である眼圧を、その弱った視神経が耐えられる数値に抑えてあげて生きている間に失明しないことを目指すのが緑内障治療の目標となります。

そこで、緑内障の治療では、2-3か月ごとに眼圧が適切な数値に落ち着いているかを確認しつつ、半年から1年に一度視野検査(見える範囲を調べる検査)で視神経の弱り具合を調べて、今の視神経が耐えられそうな眼圧がどのくらいかを見極めていくことが重要になります。眼圧を下げるための方法は、まずは点眼薬で調整をしていきますが、すべての点眼薬を使っても眼圧が十分低く保てなくなった目では必要であれば手術をして眼圧を制御していきます。

ハイキングの例えで、おばあちゃまに最初は2kgのお米でいいよーと言っておいて、ハイキングの途中で時々どーんと5kgくらいお米を持たせるような意地悪を繰り返せば、おばあちゃまが途中で足が痛くなって歩けなくなる可能性が高いのと同じように、緑内障の視神経も気が向いたときだけ点眼をして眼圧を下げても、目薬をささないことで眼圧が上がった時間が時々繰り返されると視神経の断線は進みやすくなります。

だ・か・ら

緑内障と診断されて、眼圧をさげる目薬が始まったら
目薬をつけ忘れないようにしてくださいね!