白内障手術のお話でも説明したとおり、白内障手術では水晶体が入った袋の中身を砕いて吸い出し、空っぽになった袋の中に人工レンズを入れて手術を終了します。この手術終了時には袋は透明のままです。
後発白内障とは、白内障手術を終えた目で、人工レンズを入れてある袋が時間とともに濁ってしまった状態です。
手術終了時に手術顕微鏡の拡大率で見える範囲では、水晶体の袋は透明ですが、実はミクロの世界では、水晶体の袋の内側に水晶体を作る水晶体上皮細胞たちが残っています。この水晶体上皮細胞は本来は袋の前側にいるのですが、術後炎症などの影響によって変化し、袋を足場にして徐々に袋の後ろへと分裂増殖していきます。
変質した水晶体上皮細胞は綺麗な水晶体を再生できるわけではなく、水晶体のカスのような濁りとなって袋の内側にどんどん積もっていきます。これが光を遮り、視力低下をきたす状態にまで厚くなったものが後発白内障です。
D A Schaumberg らの研究(Ophthalmology ( Volume 105, Issue 7, 1 July 1998, Pages 1213-1221)によると、後発白内障の発生率は術後1年目で11.8%、3年目で20.7%、5年目で28.4%と報告されています。
後発白内障切開術では、YAG(ヤグ)レーザーと呼ばれるレーザー光線を濁った袋に当てて袋の真ん中に裂けめを作り、光の通り道を確保する治療法です。術直後と違って、人工レンズの足は周りの袋と癒着しているので、レンズ直径よりも小さい裂け目を袋の中央に作っても人工レンズが落ちることはありません。光を遮る濁りのなくなったレンズ中央部を通る光は網膜にピントがあうようになって後発白内障が出てくる前の見え方に戻ります。
<後発白内障切開術の危険性>
後発白内障切開術ではレーザー光線が目の奥にあるゼリーにも届くため、そのエネルギーによって眼内に軽い炎症が発生します。その炎症によって一時的に眼圧が上がったり、網膜中心部にあって視力を司る黄斑部が腫れて視力が低下する黄斑浮腫をきたす場合があります。これらは通常点眼や目の奥へのステロイド注射によって治療が可能です。
以前は後発白内障切開術によって網膜剥離が発生しやすくなるといわれていましたが、多くの過去文献を調査したAndrzej Grzybowski MD, PhDらによる研究(Asia-Pacific Journal of Ophthalmology Volume 7, Issue 5, September–October 2018, Pages 339-344)では、後発白内障切開術と網膜剥離の発生率には因果関係はなかったということが報告されています。